2003年度理論コロキュウム/Theoretical Seminor for fiscal 2003

Title Dynamical Tunneling & Many-Body Effects in Open Quantum Dots
Lecturer Prof. J. P. Bird (Arizona State University, USA)
Date 4月1日(火)午後2時〜/(2:00p.m.- Apr. 1(Thu.))
Room 工学部A棟2階交流センター(会議室)/(Faculty of Engineering, Building A, 2nd floor. Meeting Room)
Abstract Recently, there has been much excitement generated by the experimental demonstration of dynamical tunneling in studies of ultra-cold atoms. In these experiments, atoms are found to tunnel through classically-forbidden regions of phase space, to access stable orbits solated within KAM islands. While experimental demonstrations of this effect have thus far been restricted to the field of atomic physics, in our presentation we present evidence for the role of dynamical tunneling in electron transport through mesoscopic quantum dots. An important feature of the classical particle dynamics in these structures is the presence of a mixed phase space, consisting of well-defined KAM islands interspersed in a chaotic sea. While dynamical tunneling through these KAM islands is typically not accounted for in usual semiclassical treatments of quantum-dot transport, we present evidence that it may fundamentally determine the characteristics of the conductance fluctuations in such structures. Theoretical analysis of this tunneling mechanism gives quantitative predictions for the main frequency components of conductance fluctuations (as a function of magnetic field or gate voltage), which are found to be in excellent agreement with the results of recent experimental measurements. In particular, we demonstrate that resonant features in the conductance correspond to those values of the gate voltage or magnetic field for which the well-known semiclassical quantization condition is satisfied for periodic orbits with low period, including stable orbits within the KAM islands. These features correspond to tunneling resonances that are neglected by usual semiclassical approaches. We compare the predictions of our theory to the results of a recent experiment, in which a gate-voltage variation was used to generate oscillations in the conductance of GaAs/AlGaAs quantum dots. In a fully quantum-mechanical analysis of this behavior, the conductance oscillations were found to be correlated to the excitation of specific wavefunction scars in transport. In our semiclassical analysis of this same experiment, we show that the properties of these scars are consistent with dynamical tunneling of electrons into the KAM islands. To our knowledge, this is the first time that the major characteristics of experimentally observable conductance fluctuations in quantum dots are explained in a quantitative way, indicating the fundamental importance of dynamical tunneling in determining the transport dynamics of electrons in semiconductor nanostructures.


Title 多項式展開モンテカルロ法を用いたFalicov-Kimball modelの計算
Lecturer 松田 圭介 (青山学院大学)
Date 4月19日(土)午後3時〜/(3:00p.m.- Apr. 19(Sat.))
Room 工学部B棟401号室/(Faculty of Engineering, Building B, 4nd floor, B401Room)
Abstract Falicov-Kimball modelはHubbard modelを局在電子を古典粒子とみなすことで簡単化したモデルである。正方格子においてはCheckerboard型のオーダーがあることが知られているが有限温度における振る舞いはまだあまり調べられていない。そこで、この問題をモンテカルロ法を用いて解析する。さらに、格子を三角格子にしたときの局在電子の相関関数を計算した。また、通常物理量を計算する際対角化法を用いるが、さらに計算量やメモリ消費において効率のよい多項式展開法についても議論する。


Title 異方的XYスピン系における動的相転移と磁壁構造
Lecturer 藤坂 博一 (京都大学情報学研究科)
Date 6月27日(金)午後3時〜/(3:00p.m.- June 27(Friday.))
Room 工学部B棟401号室/(Faculty of Engineering, Building B, 4nd floor, B401Room)
Abstract 熱力学的相転移点以下のXYスピン系に強い振動磁場を加えると、磁場の振幅と振動数に依存してさまざまな運動が観測される。これらの運動間の変化は熱平衡系の相転移とは異なり、動的相転移とよばれている。この相転移は、実効的スピン成分と時間的な対称性の変化に伴なうものであり、力学的な分岐現象と考えることができる。講演では、相転移線を決定する近似理論について述べ、数値実験の結果と比較する。転移点近傍でのランダウ展開を用いることにより、転移の普遍性クラスはイジングスピン系と同じであることを示す。対称性の破れた相では、磁壁構造が観測される。これらの磁壁はNeel壁とBloch壁の標準形を満たすことを示し、安定領域を数値的に求めた結果およびBloch壁の消失点近傍での臨界ふるまいについて述べる。

文献
(1) S.W.Sides, P. A. Rikvold and M. A. Novotny, PRL 81, 834 (1998).
(2) H. Fujisaka, H. Tutu and P.A. Rikvold, PRE 63, 036109 (2001).
(3) T. Yasui, H. Tutu, M. Yamamoto and H. Fujisaka, PRE 66, 036123(2002).


Title 幾何学的量子計算
Lecturer 中原 幹夫 (近畿大学理工学部物理学科)
Date 7月18日(金)午後3時〜/(3:00p.m.- July 18(Fri.))
Room 工学部B棟401号室/(Faculty of Engineering, Building B, 4nd floor, B401Room)
Abstract 通常、量子計算アルゴリズムに用いられるユニタリー行列は、系のハミルトニアンから得られる時間発展のユニタリー演算子として実現される。最近これとは独立に、量子系の縮退したヒルベルト空間において、外部パラメタを断熱的に変化させることにより、目的とするユニタリー行列をいわゆる Wilczek-Zee ホロノミーとして実現する可能性が指摘された。これは縮退がない系でのベリー位相を縮退がある系に一般化したものである。セミナーでは、Wilczek-Zee ホロノミーの物理的、数学的背景を解説した後、それを用いて少数量子ビットにおけるいくつかの重要な量子ゲートを実現する方法を紹介し、それが従来の方法に比べて優れている点を指摘する。

参考文献
1. 数理科学・別冊「量子情報科学とその展開」2003中原幹夫 「幾何学と量子計算」
2. A. O. Niskanen, M. Nakahara and M. M. Salomaa,``Optimal Holonomic Quantum Gates'',
Quantum Information and Computation 2 (2002) 560.
3. A. O. Niskanen, M. Nakahara and M. M. Salomaa,``Realization of arbitrary gates in holonomic qunatum computation'',Phys. Rev. A 67 (2003) 012319.


Title 有限体上のカオス力学系
Lecturer 梅野 健 (独立行政法人通信総合研究所/株式会社カオスウェア)
Date 10月10日(金)午後4時〜/(4:00p.m.- Oct. 10(Fri.))
Room 工学部B棟401号室/(Faculty of Engineering, Building B, 4nd floor, B401Room)
Abstract 有限体上の写像力学系 Xi+1=f(Xi) mod n (n:整数、Xi:0以上n-1以下の整数)を考察する。その時、有限体という性質から、どの軌道も有限周期の周期軌道となるが、写像により、1対1となる場合(その時の写像=置換多項式)がある。その様な置換多項式は、暗号系では以下の3種が知られている。
(1) RSA関数: f(x)=x^e mod n, where n=pq(p とqは異なる2以外の素数),eは(p-1)(q-1)と互いに素となる整数。=>RSA暗号、RSA署名
(2) f(x)=x(2x+1) mod n, where n=2^m=>RC6ブロック暗号
(3) ラビン関数:f(x)=x^2 mod n, where n=pq(p とqは異なる素数で4で割った時の余りは3であるもの)。
本講演では、最近講演者によって証明された定理(K.U.,2003):「チェビシェフ多項式が2のべき乗体上で置換多項式となる必要十分条件はチェビシェフ多項式の次数が奇数である。」を示し、実数体上でチェビシェフ多項式が持つエルゴード性(カオス性)が、限体上では如何なる性質を持つかを調べ、”有限体上のカオス”(デジタルカオス)について議論する。先に提案されたこのカオス写像(=チェビシェフ多項式)を用いた公開鍵暗号システムの安全性についてもあわせて議論する。


Title Dynamical Jahn-Teller系における量子カオス
Lecturer 山崎 久嗣 (千葉大学自然科学研究科 数理物性科学専攻)
Date 10月17日(金)午後3時〜/(3:00p.m.- Oct. 17(Fri.))
Room 工学部B棟401号室/(Faculty of Engineering, Building B, 4nd floor, B401Room)
Abstract 現在、量子カオスの分野ではこれまで行われてきたような理論的モデルに対する解析の段階から、現実的なモデルを用いて実際の物性実験で量子論的カオス がどのように見えるのかという次の段階へ進もうとしている。そこで我々は、現実の結晶中における不純物として遷移金属イオンを含むJahn-Teller系を選び、古典的にダイナミクスを議論したときに断熱近似のもとでカオスが発生することを示す。さらにそれを量子化した 場合、古典カオスの影響がどのように量子系で見られるのかを議論する。我々は今回カオスと周期運動が混在した中間状態を議論し磁気量子化が抑制されるような領域で磁気的g因子のエネルギーに対する振動に与えるカオスの効果を解析し、磁気的g因子振動構造の抑制や不規則振動の発生を詳しく議論する。[1]また、最後にこれまで電子遷移の分野で議論されてきた吸収スペクトルのFranck-Condon原理に対するカオスの影響も議論する。
[1] H.Yamasaki,Y.Natsume,A.Terai and K.Nakamura,Phys.Rev.E68(2003) 046201-046208.


Title ベリーの位相と原子分子のゲージ理論
Lecturer 谷村 省吾 (大阪市立大学 工学研究科)
Date 10月28日(金)午後3時〜/(3:00p.m.- Oct. 28(Fri.))
Room 工学部B棟401号室/(Faculty of Engineering, Building B, 4nd floor, B401Room)
Abstract 量子力学の幾何学的位相をBerryが明確に捉えて発表したのは1984年のことであり、ただちに、Simonがゲージ場の幾何学によってBerryの位相を記述できることを指摘している。また、「猫の宙返り」と称される、角運動量ゼロの回転運動がなぜ可能かという問題は古い問題であるが、微分幾何を使って宙返りの必要十分条件を示したのは、1984年の Guichardetの仕事であろう。これらの研究は、原子分子の回転・振動運動の古典力学あるいは量子力学の両面に引き継がれている。とくに「真っ直ぐな分子」は幾何的に特異な配位であるため、ハミルトニアンの見かけの発散や、波動関数の不定性などの問題を生む。ちょっと以前に、私は岩井氏とこの「真っ直ぐな分子」の問題を解決した。
(J. Math. Phys. 41 (2000) 1814; e-print arXive: math-ph/9907005)
そのためにはゲージ理論の大幅な(ちょっとした?)拡張が必要であった。このセミナーでは、この古くて長い問題と、その答えについて紹介したい。
(インフォーマルな雰囲気でお話しするので気楽に聞いて下さい。)


Title 回転するアルカリ原子気体BECにおける量子渦のダイナミクス
Lecturer 笠松 健一 (大阪市立大学 理学研究科)
Date 12月16日(火)午後3時〜/(3:00p.m.- Dec. 16(Fri.))
Room 工学部B棟401号室/(Faculty of Engineering, Building B, 4nd floor, B401Room)
Abstract 近年、アルカリ原子気体のBose-Einstein 凝縮体 (BEC) に回転を与える事により、量子渦の格子状態、及びその形成のダイナミクスの直接観測に実験的に成功している。本講演では、我々が行ったBECの量子渦に関する一連の研究を紹介する。まず、量子渦形成のダイナミクスを明らかにするために、巨視的波動関数が従うGross-Pitaevskii 方程式の数値解析を行い、凝縮体の四重極振動、表面波励起を経て、量子渦が凝縮体内に侵入し、渦格子を形成する一連のダイナミクスを明らかにした[1,3]。それらは、ENSのグループによってなされた実験結果とコンシステントである。次に、調和振動子ポテンシャルに4次の非調和項を加えた結合ポテンシャル中のBECの高速回転に対する挙動に関して述べる。回転する凝縮体に作用する遠心力の影響によ り、多重量子数を有し回転超流動を伴う「巨大渦」が形成されることを見い出した [2]。最後に、回転ポテンシャル中の2成分のBECにおける量子渦状態の構造について議論する。平衡状態を回転振動数と異成分原子間相互作用を可変パラメータとして調べ、四角格子、ダブルコア格子、渦シート等の多彩な渦状態を形成する事が明らかになった [4]。
参考文献
[1]M. Tsubota, K. Kasamatsu, and M. Ueda , Phys. Rev. A, 65, 023603 (2002).
[2]K. Kasamatsu, M. Tsubota, and M. Ueda, Phys. Rev. A, 66, 053606 (2002).
[3]K. Kasamatsu, M. Tsubota, and M. Ueda, Phys. Rev. A, 67, 033610 (2003).
[4]K. Kasamatsu, M. Tsubota, and M. Ueda, Phys. Rev. Lett. 91, 150406 (2003).


Title 量子スピンXXZ鎖の準位統計
Lecturer 工藤 和恵 (お茶の水女子大学大学院 人間文化研究科)
Date 1月20日(火)午後3時〜/(3:00p.m.- Jan. 16(Thu.))
Room 工学部B棟401号室/(Faculty of Engineering, Building B, 4nd floor, B401Room)
Abstract  量子XXZスピン鎖は可積分の模型であり、準位間隔分布はほとんどの場合ポアソン分布を示す。(ただし例外はある。) この模型に(i)次近接相互作用を加えて、あるいは(ii)ランダム磁場を加えて非可積分にした場合に準位間隔分布がどう変化するかを調べた。どちらの場合も、パラメタのとり方によっては予想していたウィグナー分布から外れてしまうことが分かった。また、(i)では系の対称性、(ii)ではアンダーソン局在との関連についても議論したい。
文献:
K. Kudo and T. Deguchi, Phys. Rev. B 68, 052510 (2003).
K. Kudo and T. Deguchi, cond-mat/0310752.


Title 強磁場中におけるCu2O光吸収スペクトルの不安定軌道による解釈の試み
Lecturer 瀬山 実穂 (物質・材料研究機構(つくば))
Date 1月30日(金)午後4時〜/(4:00p.m.- Jan. 30(Fri.))
Room 工学部B棟401号室/(Faculty of Engineering, Building B, 4nd floor, B401Room)
Abstract Cu2Oは吸収スペクトル中に水素原子様の鋭いエキシトンピークが多数みられる物質で、水素原子の強磁場中での振舞いを観測するには条件のよいことから古くから研究されている。我々は、定常強磁場と高分解能分光器を用いることによりその吸収スペクトルを詳細に観測し、広い磁場領域におけるスペクトルの挙動に新たな特徴を発見した。こうした特徴を量子カオスの観点から解釈するため、磁場中水素原子の古典運動中の不安定周期軌道を抽出し、これらの軌道の平均回帰時間や回帰時間分布と測定スペクトルの対応を調べる方法を行った。講演では、吸収スペクトルの詳細について紹介し、古典軌道との対応について報告する予定である。