2001年度理論コロキウム

Title 量子ドット---「電子分子」から「量子液滴」まで
Lecturer 青木 秀夫 (東京大学理学系研究科)
Date 3月11日(月)午後3時〜(曜日に注意してください)
Room 工学部 B棟 4階 B401号室
Abstract 電子を数個しか含まない量子ドットは最近作成可能になっているが、強磁場をかけると、ランダウ量子化のために電子相関が強くなり、自発的に「電子分子」構造をとり、全角運動量が特定の「魔法数」でエネルギーが安定化する、という原子核のshell構造のような現象が起きる。これは、電子がパウリ排他律を満たしながら分子的配置をとる際に、電子分子の振動量子も含めた量子数に群論的な制限がつくためである。ドットでは、状況によっては「量子液滴」(量子液体(例えば分数量子ホール状態)の雫)が生じる場合もある。分数量子ホール状態はゲージ対称性を破っているが、一般に超伝導や強磁性も含めて、「有限系における対称性の破れとは何か」という問題がある。これも視野に入れながらoverviewしたい。


Title 摩擦の物理
Lecturer 松川 宏 (大阪大学理学研究科)
Date 2月22日(金)午後4時〜
Room 工学部 B棟 4階 B401号室
Abstract 介在物のある滑り摩擦は様々なスケールで現れ、多様な振る舞いを示す。マクロな潤滑剤を含む場合、スムースな滑りを起こすが、潤滑剤が数分子層となるとバルクの融点より高温でも、潤滑剤は固化しスティックスリップを起こす。このときのスティックスリップは周期的である。粉体をはさんだ系の場合、周期的あるいは非周期的なスティックスリップが起こる。地震も介在物のある滑り摩擦の系の例であるが、このときのスティックスリップは確率的で、その分布は巾乗則に従う。このような多様性の原因は不明である。それを明らかにするため、介在物の密度揺らぎを力学変数とする有効モデルを作った。このモデルの解析により、これまで信じられていたものとは異なる、新しいスティックスリップのシナリオが見つかった。


Title Quantum localization of the kicked Rydberg atom
Lecturer Dr. Shuhei Yoshida (Vienna university of technology)
Date 1月7日(月)午後4時〜
Room 工学部 B棟 4階 B401号室
Abstract Simple driven atomic systems provide an ideal testing ground to explore notions of quantum chaos as they have become experimentally accessible. Only very recently, a new driven system, the ``kicked Rydberg atom'' has been achieved by exposing atoms with $n_i \sim 400$ to trains of many equi-spaced half-cycle pulses. Classical simulations show that the kicked atom is, depending on the pulse repetition frequency, chaotic or characterized by a mixed phase space with various families of fully stable islands within which the atom is stable against ionization. When the classical atom is stable, the corresponding quantum wave functions closely mimic the classical stable islands in phase space. Remarkably, the quantum system is found to be stable even when the classical system becomes chaotic and leads to fast ionization. In such cases, the quantum system becomes localized along the paths of classical unstable periodic orbits. The quantum uncertainty plays an important role to realize the quantum localization.


Title ランダム競合系のガラス状態のマージナル安定性と緩和初期化現象
Lecturer 吉野 元 (大阪大学大学院 理学研究科)
Date 11月27日(金)午後4時〜
Room 工学部 B棟 4階 B401号室
Abstract 無限小の温度変化など、わずかな摂動によってもグラス相の大局的な自由エネルギー構造が劇的に変わるという興味深い予想がスピングラスなどのランダム競合系に対して 現象論的スケーリング理論によって1980年代に予想されていた。これはスピングラスなどにおける最近の Rejuvenation(緩和再初期化) 効果の実験との関連で興味が持たれているが, スピングラス模型では理論的にも数値的にも確定的な証拠は得らず、議論が続いている。今回、directed polymer in random media (DPRM) (1+1次元)と呼ばれる統計力学的模型についてこの問題を研究した。この模型は例えば酸素欠陥がランダムに分布した第2種超伝導体中の磁束線の有効模型と捉えられる。この系ではランダムなピン止めと弾性力との複雑な競合が起こっており、スピングラス模型と共通するガラス的性質が見出される。我々はこの問題をレプリカ法を通じてある可解な1次元ボーズ粒子系の問題にマップした解析を行った。その結果、上記の現象が「レプリカ対称性の破れ」として発現することを見出し、オーバーラップ長とよばれる特徴的な長さスケールの存在などスケーリング理論の予想を支持する結果を始めて得た。また転送行列法を用いた詳しい数値解析を行い、この現象のスケーリング特性を詳細に調べた。
本研究はUniversitat de Barcelona (Spain) の Marta Sales 氏と共同で行われた。


Title 電界イオン化を利用したスピン偏極イオン生成 --スピン配向を規定した電子トンネリング--
Lecturer 小林 中 (大阪市立大学大学院 工学研究科)
Date 10月26日(金)午後3時〜
Room 工学部 B棟 4階 B401号室
Abstract 電界イオン化の最も身近な例は、電界イオン顕微鏡(FIM)における結像ガス原子のイオン化過程である。この電界イオン化の最初のステップは、ガス原子の最外郭軌道に有る電子が固体表面にトンネリングを起こすことから始まるが、もしその遷移を起こすトンネル電子のスピン配向が特定の方向に限定される状況を創り出すことが出来れば、その結果としてイオン化を起こした原子の残りのスピン配向がその逆方向に揃うことになる。実際にこのような過程によりスピン偏極イオンを生成出来るのか、実験的な試みについて話を行う予定である。


Title 場の量子論における非平衡局所状態の定式化と熱力学的性質
Lecturer 小嶋 泉 (京大数理解析研究所)
Date 10月23日(火)午後3時〜
Room 工学部 B棟 4階 B401号室
Abstract 相対論的場の量子論の枠組の中で,局所的に熱力学的解釈ができるような非平衡状態を特徴づける新しい手法を導入する。これは,局所熱力学的な意味づけの可能な量子論的観測量を定義し[局所熱的観測量と呼ぶ],与えられた未知の量子状態においてその適当な組を測定して,得られた測定値の組を大域的な熱平衡状態での対応する測定値の組と比較することによって実現される:1点 x における局所熱的観測量の集合 S_x について,状態ωでのその測定値が全て,逆温度βにおける大域的熱平衡状態 ωβでの対応する値と一致すれば,Sx を用いて記述される熱的性質に関する限り,ωはωβと同じように見える:ω≡ωβ(modulo Sx),という意味で,ωβに付随する熱力学的性質をωに付与することが可能となる。このような局所熱的観測量の全体は,量子場の積構造に由来する自然な階層構造を持ち,それによって状態の局所的熱的な安定性の大小を判定することができる。これは抽象的な設定での議論に終始するものではなく,例えば,局所温度やエントロピー密度のように,具体的に明確な熱力学的意味を持つ量について,対応する熱的性質をもつ状態の同定を論ずることまで含む。(時間が許せば)このような一般的手法の有効性を示す目的で,ある簡単なモデルを考え,そこではちょうど熱的意味でのビッグバンに対応する時間空間的状況が実現され,自然に「時間の矢」の一方が選ばれていること,等々,を議論したい。


Title マスロフ指数と不安定性指標入門
Lecturer 杉田 歩 (大阪大学原子核研究所)
Date 9月25日(火)午後3時〜
Room 工学部 B棟 4階 B401号室
Abstract トレース公式に現れるマスロフ指数と不安定性指標は、周期軌道のまわりの相空間の幾何学的な性質を反映した量である。しかし、特にマスロフ指数に関しては、これまで明確な意味付けをすることが難しかった。このトークでは、この幾何学的性質が、接続の微分幾何(ゲージ理論)を使ってうまく記述できることを説明する。


Title 1次元強相関分子性導体における多様な秩序相と励起スペクトル
Lecturer 桑原 真人(神戸大学 分子フォトサイエンス研究センター)
Date 7月6日(金) 3:00p.m.-
Room 工学部 B棟 4階 B401号室
Abstract 有機導体や金属錯体などの1次元分子性物質では電子間相互作用と電子格子相互作用の競合・協力や、バンド充填率によって電荷秩序、スピン秩序を伴った多様な電子状態が現われる。我々は、これらの秩序発現機構を厳密対角化や密度行列繰り込み群の方法等を用いて解析している。本セミナーでは次の2つのトピックスを紹介する。
(1)MMX鎖における多様な秩序相と光学伝導度MMX鎖では主に配位子、ハロゲンイオン、対イオンに依存して、金属的伝導を示す平均原子価相や様々な電荷秩序や格子変形を伴う絶縁相が現れる。これらは電子間相互作用と電子格子相互作用の競合、または電子間相互作用の短距離と長距離成分が競合しているという観点から整理される。
(2)DCNQI−Cuにおける金属絶縁体転移DCNQI−Cuではπ軌道とd軌道の混成により伝導性と磁性の複合した状態が現れる。圧力下においては電子格子相互作用と電子間相互作用が協力的に働いて3倍周期構造に強く引き込まれて広い圧力領域で絶縁相が実現していることを示す。


Title メゾスコピック強磁性体における磁壁の量子力学
Lecturer 柴田 絢也 (大阪大学大学院 理学研究科)
Date 7月3日(火) 4:00p.m.-
Room 工学部B棟401号室
Abstract 近年、微細加工技術の進歩により作成可能となったナノスケールの強磁性細線中の磁壁に関する量子力学の微視的基礎付けを行う。その為の数学的手法として、Spin coherent state path integral における集団自由度の方法を用いる。


Title 結合位相写像系のカオスと普遍ゆらぎ
Lecturer 藤坂 博一 (京都大学情報学研究科)
Date 6/14 (Thu), 4:30p.m.-(時間が変更になりました)
Room 工学部B棟401号室
Abstract 最近,ある種の乱流や2次元XYスピン系で観測される普遍ゆらぎ(rare fluctuation)が注目を集めている.系を特徴付ける変数のゆらぎ強度の確率密度が極大値近傍を除いてガウシアンから大きくずれ,平均値と分散を用いたスケールにより広い領域で1つのスケーリング関数で表される.われわれは,局所相互作用をもつ弱結合系の位相結合写像系を構成し,数値実験を行った.臨界結合強度で擬同期状態が不安定化し空間的に強く乱れたカオスが現れる.転移の近傍で,普遍ゆらぎが観測されることを見出した.さらに,このような普遍ゆらぎを示す時間変動のスペクトル強度は広い範囲でべき則を示し,時間相関関数は引き伸ばされた指数関数で減衰することを見出した.


Title 量子トンネル効果:周期非断熱トンネルによる分子スイッチと多次元トンネルの理論
Lecturer 中村 宏樹 (分子科学研究所)
Date 5/15(Tue), 3:00p.m.- (曜日に注意してください)
Room 工学部B棟401号室
Abstract 異符号の勾配を持つ座標依存のポテンシャル曲線が交差する場合の非断熱遷移を非断熱トンネルと言うが、この時完全反射という興味ある現象が起る。これを用いて理論的には分子スイッチや分子過程の制御を考えることが出来る。これらに関する理論解析をお話しすると同時に多次元トンネルの理論にも触れる。


Title メゾスコピックな反転対称性の破れによる二次の光学非線形性(インフォーマルセミナー)
Lecturer 越野 和樹 (理化学研究所)
Date 5/11(Fri), 3:00p.m.-
Room 工学部B棟401号室
Abstract ある結晶が二次の光学非線形性を持つためには空間反転対称性を持たない結晶構造をしていることが必要であり,反転対称性のある構造をもった結晶においては,表面や界面など微視的に反転対称性の失われている部分を除いては,二次の光学非線形性を持たないことが非線形光学においては常識とされている.一方,近年の微細構造加工技術の進歩によって光の波長程度のメゾスコピックな構造を人工的に作製することが可能になっており,ミクロスコピック(原子間距離程度)には反転対称性のある結晶構造をしているがメゾスコピックには反転対称性を持たないような系を実現できるようになった.本研究では,このような大きなスケールでの反転対称性の破れが二次の光学非線形性にどのように働くかという点に関して理論的に考察する.


Title 強磁性体のカオスとパターン形成
Lecturer 味野 道信 (岡山大学理学部)
Date 4/27(Fri), 3:00p.m.-
Room 工学部B棟401号室
Abstract

大電力マイクロ波で励起されたマグノン系は,カオス的自励発振を起こすことが知られている.強磁性体であるイットリウム・鉄・ガーネット(YIG)の実験から得られたストレンジアトラクタのフラクタル構造や,時間遅延によるカオスコントロールについて紹介する.また,周期磁場が加えられたYIG薄膜で観測される磁区構造の緩和過程,格子状パターンなどについても併せて紹介する.