大変遅れまして、申し訳ございません。
第7回分をアップいたします。

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今回は導電性高分子の工業的応用についてお話します。

現在、最も注目を集めているのは、電界発光ディスプレイでしょう。
これは、液晶にかわる次世代のフッラトパネルディスプレイとして
有望です。その特徴は、自己発光のため視認性が高く、バックライ
トが必要でないので薄型化が可能で、応答速度が早く、消費電力も
比較的低いことです。

                  視認性    薄さ    消費電力
    液晶            ×       △       ○     
    プラズマ        △       △       ×
    電界発光        ○       ○       △

    図1   フラットパネルディスプレイの比較

電界発光素子の材料としては大きく分けて、無機物と有機物があり
ます。消費電力(あるいは必要な電圧)は有機物の方が低いですので、
研究の中心は有機物にシフトしています。有機物には低分子のもの
と高分子のものがあります。低分子材料を用いた電界発光表示装置
は、すでにパイオニアがカーオーディオの表示部として製品化して
いますが、高精細ディスプレイは至烈な開発競争が行われています。
この特許はアメリカのコダック社が握っていますが、日本のメーカ
ーも独自に開発しています。ソニーは13インチのフルカラーディ
スプレイの試作に成功していますし、日本電気はディスプレイに有
機低分子電界発光素子を用いた携帯電話を出荷しています。一方、
高分子材料は大型パネル化が可能なことから、電界発光素子の本命
と言われています。セイコー・エプソンや東芝はプリンターのイン
クジェット技術を応用した有機高分子電界発光ディスプレイの試作
品を発表しています。海外では、イギリスのケンブリッジ・ディス
プレイ・テクノロジー社が高分子材料の開発で有名です。この会社
は有機高分子電界発光素子の研究を最初に手掛けたケンブリッジ大
のリチャード・フレンドという研究者が設立したベンチャー企業です。

それでは、有機高分子電界発光ディスプレイの構造についてお話し
ましょう。最も簡単なものを図1に示します。

                             
        A┏━━━━━━━━━━━━┓────────→
      B┏━━━━━━━━━━━━━━┓                 外部電源へ
    C┏━━━━━━━━━━━━━━━━┓──────→
┌────────────────────┐
│                ガラス                  │
└────────────────────┘
                     │
                     │
                     ↓光

       A:陰極    アルミニウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属
       B:発光層  導電性高分子の薄膜
       C:陽極    インジウム錫の酸化膜

       図2  電界発光素子の構造

Bが導電性高分子でできた発光層です。Aが陰極で、こちら側から
負電荷(電子)が高分子層に注入され、陽極のCからは正電荷(空孔
と呼びます)が注入されます。両極から注入された正電荷と負電荷
が高分子層の中で出会って対消滅するとき、光を発するわけです。
陽極Cに用いられている物質は透明なので、発生した光はガラス層
を通って外部に出ます。

発光素子にはどのような導電性高分子が用いられているのでしょうか?
残念ながら、前回までお話したポリアセチレンは電圧をかけても発光
してくれません。これは、異なる電荷を持ったソリトン同士が出会っ
た時に、「量子トンネル効果」という現象が起こって、電荷を持たな
いソリトンに化けてしまうことが原因だと考えられています。従って、
電界発光素子には図3に示したような、ポリアセチレンよりは少し複
雑な構造をもった物質が使われています。

      __         
  _/    \_      __
    \__/  \_/    \_      __
                  \__/  \_/    \_      __
                                \__/  \_/    \_
                                              \__/  \_
              
         図3 ポリパラフェニレンビニレン(PPV)     

このPPVという物質は黄〜緑の光を発光をします。 それでは発光
のメカニズムをもう少し詳しく説明しましょう。陰極側から注入
された電子はPPVの中ではポーラロンというものに化けます。一方、
陽極から注入された正電荷も別の種類のポーラロンになります。
それぞれのポーラロンのエネルギー準位は図4のようになります。


  ─────────       ─────────

      ─○─●─               ─○─○─            ─●─    
                                                       │
                                                       │〜〜〜→ 光
                                                       ↓
      ─●─●─               ─○─●─            ─○─
  
  ─────────       ─────────
  ×××××××××       ×××××××××
  ×××××××××       ×××××××××

  負電荷のポーラロン       正電荷のポーラロン

  図4  2種類のポーラロンのエネルギー準位
        左側の上の準位にある電子(●)が
        右側の下の準位にある空孔(○)に
        落ちるとき、光を発光する。

2つのポーラロンが出会って、負電荷のポーラロンの上側の準位にある
電子が、正電荷のポーラロンの下側の準位にある空孔に遷移するとき、
そのエネルギー差に見合った光を発光するわけです。

では、有機高分子を用いた電界発光素子には問題はないのでしょうか?
残念ながら、大きく分けて2つの問題があります。一つは発光効率の
問題です。図5の右側のように、両極から注入される負電荷と正電荷
の量が釣り合っているときは発光効率が良いのです。しかし、左側の
ようにバランスが悪いときは、せっかく陽極から注入された正電荷が
負電荷と出会うことなく陰極まで到達してしまって、光を発するのに
役立ってくれません。PPVなどの通常の導電性高分子では図の左側のよ
うになってしまいます。正電荷は注入しやすいのですが、負電荷は注
入しにくいのです。そこで、負電荷を注入しやすくするために、陽極
に仕事関数の小さなカルシウムを用いたり、陰極と発光層との間に負
電荷を注入しやすい導電性高分子の層を挟んだり(ヘテロ構造あるいは
二層発光ダイオードと呼びます)などの工夫を凝らしています。現在で
は発光効率が数%程度あって、電圧5ボルトで100カンデラ/m2を
超える発光強度を持つ素子が開発されています。

      ┃        ←┃               ┃→  ☆  ←┃
      ┃        ←┃               ┃→  ☆  ←┃
      ┃→  ☆  ←┃               ┃→  ☆  ←┃
      ┃        ←┃               ┃→  ☆  ←┃
      ┃        ←┃               ┃→  ☆  ←┃
      ┃→  ☆  ←┃               ┃→  ☆  ←┃
      ┃        ←┃               ┃→  ☆  ←┃
      ┃        ←┃               ┃→  ☆  ←┃
     陰極        陽極             陰極        陽極
    
      バランスが悪い               バランスが良い
          
        図5  電子と正孔のバランス


        A┏━━━━━━━━━━━┓─────────→
     B′┏━━━━━━━━━━━━┓              外部電源へ
     B┏━━━━━━━━━━━━━━┓                 
    C┏━━━━━━━━━━━━━━━━┓──────→
┌────────────────────┐
│                ガラス                  │
└────────────────────┘

       A  :陰極            
       B′:電子注入輸送層  導電性高分子の薄膜
       B  :発光層          導電性高分子の薄膜
       C  :陽極            インジウム錫の酸化膜
       場合によってはB′層内で発光が起こることもある。

        図6  二層発光ダイオード

もう一つの問題は発光色の問題です。フルカラーディスプレイを作る
には、少なくとも、赤、緑、青の光の3原色が必要です。有名なアイ
ンシュタインの関係

                          c
      ΔE=hν,  ν= ──
                          λ

      ΔE:電子と正孔のエネルギー(図4の2準位間のエネルギー差) 
      h  :プランク定数
      ν  :放出される光の振動数
      λ  :放出される光の波長
      c  :光速

を用いると、波長の長い赤色の発光を得るにはΔEを小さくすれば
良く、逆に波長短い青色にはΔEを大きくすれば良いことがわかり
ます。ΔEを小さくするには、PPVのベンゼン環にアルコキシル基と
いう飾り(側鎖と言います)をつけます。このようにして、赤色発光
が得られています。逆にΔEを大きくするには、PPVの炭素原子の
一部を飽和炭素(sp3混成軌道を持った炭素)で置き換えて、π電子
の動く範囲を限定します。青色発光はこのようにして得られていま
すが、まだ問題が残っています。青色発光素子は図5の電子と正孔
のバランスが非常に取りにくく、従って、発光効率が低いのです。
しかし、この分野は日進月歩ですので、近い将来この問題も解決す
ることでしょう。

これで、電解発光素子についてのお話は終りにします。今回の話で、
最先端の科学技術が産業に活かされていることを理解して頂ければ
幸いです。導電性高分子の応用については、このインターネット講
座の第1回でもお話したように、ボタン型電池の電極や電気自動車
のバッテリーなどもあります。これらについては皆さんで調べてみ
て下さい。

私の担当分はこれでおしまいです。毎回、原稿書きが大変遅れてし
まい、皆様にご迷惑をおかけしてしまったことを最後に深くお詫び
申し上げます。

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レポート問題

次の3問の中から1問以上を選択してレポートを書いて下さい。

1.金属,半導体,絶縁体のそれぞれの特徴を述べよ。

2.ポリアセチレンが電気を通すメカニズムを説明せよ。

3.本文では導電性高分子の工業的応用として電界発光素子の
    話をしたが、これ以外の応用例について各自で調べよ。

提出〆切:  2002年1月末日
提出先  :  terai@a-phys.eng.osaka-cu.ac.jp
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